もうすぐ新年度ですね。新年度になると子どもも先生も気になるのがクラス替えです。
先生としては、今後1年間のクラス運営に大きく関わるので、自分のクラスにどんな子がいるのかはとても気になる情報です。
子どもの情報として特に大切なのは、配慮を要する子どもについてです。
子どもには様々な配慮を必要とする子がいます。それぞれの子どもに対して、予め対応を考えておく必要があります。
今日は、その中でも場面緘黙の子について考えていきたいと思います。
参考文献は、『アンジェラE.マクホルム チャールスE.カニンガム メラニーK.バニエー 場面緘黙児への支援ー学校で話せない子をたすけるためにー』です。
場面緘黙とは
そもそも場面緘黙とはどのようなものなのでしょうか。
場面緘黙とは、ある特定の場所で口をきかなくなることです。不安からくる症状で、特定恐怖症と見なされています。自分が話すことに関して、誰かに見られたり聞かれたりすることに恐怖を感じてしまいます。
広い範囲で言えば、ヘビを怖がったり高いところを怖がったりすることと同じ恐怖症であるということです。
しかし、裏を返せば、安心している状態でなら場面緘黙の症状が出ずに、スラスラとしゃべることができます。場面緘黙の子を担任したことがある先生なら経験があると思いますが、学校ではほとんどしゃべらないのに、保護者の話を聞くと「家ではうるさいくらいしゃべりますよ。」というふうに言われたことがあるかもしれません。
つまり、場面緘黙の子にとっては、自分が話すときの状況(場所・人・活動)が大きく影響しています。
場面緘黙の子を担任することになったらどうするか
今のところ、場面緘黙への治療効果が高いのは行動療法です。
行動療法では、人間の行動の大部分はその人が置かれた環境に対する反応として習得されると考えられています。
すなわち、行動療法とは、観察可能な行動やある特定の行動パターンを生み出したり持続させ足りするような環境要因に焦点をあてています。
その中で、不安に基づく症状を治療するために欠かせない要素が暴露(exposure)と移行(transfer)だと考えられています。
暴露と聞くと物々しい様に聞こえますが、ちゃんとした治療効果があります。
暴露療法では、脅威を感じる場面に対して恐怖心や回避したいという気持ちをなくしていく目的で、治療を受ける人をそのような場面に意図的にさらします。
それによって、自分はその場面に耐えられるし、こみ上げる不安感に何とか対処できたのだと学習させるのです。
暴露という方法は、恐怖を避けるだけでなく、恐怖感はあっても、その中で別の対処法を学習する機会を提供してくれます。
これに近いようなことはみなさん経験しているはずです。
例えば初めて自転車に乗れるようになったときです。
最初は後ろで誰かに押さえてもらわないとこぎ出すことができません。しかし、だんだんと押さえてもらう段階から補助輪だけになり、最終的に一人で自転車に乗れるようになります。
大切なのは、スモールステップで小さな階段を上っていくこと。
話すことに不安がある子にとって、知らない場所で知らない相手と初めての活動をすることはとてもハードルが高いです。一方、家の中で母親と(または父親と)ご飯を食べながらお話をすることはとてもハードルが低いです。これらは簡単に想像できますよね。
担任としてまずできることは、その子が、場所・人・活動の3つの視点で、どこまでできるのかを保護者と一緒に確認することです。
では、次からこの3つの視点についてそれぞれ考えていきましょう。
場所 ~席替えで意識すること~
まずは、『場所』について考えます。
担任としてまず考えることは、その子の席をどこにするかです。
座席については、以下の3つのことを意識しましょう。
- 後ろの席にする
- 出入り口を避ける
- 担任から離す(または近づける)
後ろの席にする
場面緘黙の子にとっては、話していることを見られることが苦手です。
普段あまり離さない子が、友達と話しているとき、やんちゃな子がそれを発見して「あ!〇〇がしゃべってる!」と大きな声で話をしてしまう可能性があります。本人には悪気がなくても、言われた方は大きく傷付いてしまう可能性があります。
そのため、後ろの席にすることで安心して話すことができます。
出入り口を避ける
学校生活では一日の大半の教室で過ごします。
席を後ろに配置しても、出入り口付近だと安心して話すことができません。
むしろ、教室のドア付近だと自分のクラスの子以外の子も近づいてくる可能性があるので、場面関目の子を配置するのはおすすめできません。
担任から離す(または近づける)
これは、その子が大人に対してどういう反応を見せるかで変わってきます。
大人が近くにいない方が友達と話しやすいのであれば、担任の先生からは離れた位置に配置しましょう。
一方、大人が近くにいた方が安心して話せるというのであれば、担任の先生から近い位置に配置するとよいでしょう。
人 〜過去に話したことがある子を見つける〜
場面緘黙の子は自分から友達をつくりに行くことに苦手意識を感じています。
そのため、多くは自分が安心して話すことができる子にだけ話をします。
したがって、担任の先生は、その子が話せる子を把握しておく必要があります。
話せる子というは、「過去にその子と話したことがある子」ということです。学級委員のような誰とでも話せるような良い子というわけではなく、過去に実際に話したことがある子をピックアップします。
その相手は、自分で見て把握してもいいですが、ぜひ保護者の力を借りましょう。
場面緘黙の子は、家でならたくさん話すケースが多いです。保護者に「〇〇と話したんだ〜。今度お家に呼びたいな〜。」などと話しているかもしれません。今後のため人も保護者と連携をとってその子と仲の良い子を把握しておきましょう。
自分から話したことがない子へ話しかけるのは無理でも、自分の友達が話している相手なら自分も話すことができるようになります。そうして、少しずつ友達の和を広げていきましょう。
時間が経つと人間関係が固定化してしまうので、最初が肝心です。自分のクラスに場面緘黙の子がいると分かった段階で動き出していきましょう。
活動 〜話さなければいけないというプレッシャーをかけない〜
学校では日々様々な活動が行われます。
しかし、緘黙の子に対しては、「話さなければいけない」というプレッシャーを与えないようにしましょう。
「そんなことしないでしょ」と思うかもしれませんが、意識していないと意外とやってしまっている場合があります。
例えば、「なんでもいいから自分の言葉で説明してごらん」「〇〇すればボーナス点をあげるよ」「〇〇しないと成績がつかないんだよね〜」など、準備ができていないのに話すことを強要したり、罰やご褒美を与えたりしていませんか。
こうした関わり方は、場面緘黙の子にとって、話すことの不安が増すだけで逆効果です。その子のことを想ってあえて機会を与えたくなる気持ちはわかりますが、やればやるほどそうした機会からどうにか逃げようとしてしまうのでおすすめできません。
では、どうすればよいのか。
当たり前のことですが、話すのが苦手な子は、スモールステップでの活動を心がけていきましょう。
具体的には、以下の通りです。
- 仲の良いこと同じグループにしてグループへの所属感を感じさせます。
- グループでは、話す以外の小さな役割を与え、自己有用感を高めていきます。
- 小さな役割をこなすことを繰り返すことで、徐々にできることを増やしていきます。
あくまで、場面緘黙は不安からくる症状です。自分に自信がもつことができれば段々と和らいでいくはずです。そのためにも小さい階段を一歩ずつ登っていきましょう。
まとめ
今日は、クラスに場面緘黙の子がいるときの対処法について考えていきました。
場面緘黙は、子ども達の様々な特性の一つです。
話すということは誰でもできるからこそ、なかなか受け入れられないことです。
しかし、最初の一歩さえうまくいけば、段々と話せるようになります。
そのために、保護者と協力して話せる子を把握し、教室に適切に配置し、自信をもてるようにスモールステップで活動に取り組ませていきましょう。
以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。
何かしら参考になれば幸いです。