授業力や生徒指導力、子どもを理解する力など、教員には様々な力が必要です。
文部科学省から出ている【資料1‐3 今後の教員養成・免許制度の在り方について(答申)(案)】の「これからの社会と教員に求められる資質能力」にも以下のように示されています。
(前略)
平成17年10月の本審議会の答申「新しい時代の義務教育を創造する」においては、優れた教師の条件について、大きく集約すると以下の3つの要素が重要であるとしている。
- 教職に対する強い情熱
教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感など- 教育の専門家としての確かな力量
子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級づくりの力、学習指導・授業づくりの力、教材解釈の力など- 総合的な人間力
豊かな人間性や社会性、常識と教養、礼儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人格的資質、教職員全体と同僚として協力していくこと
その中でも、今日は「子ども理解力、児童・生徒指導力」「コミュニケーション能力などの人格的資質」に関わる質問力に焦点を当てていきたいと思います。
教員が質問力を磨くと、子どもの思考力が高まり、子どもとその保護者、同僚との関係も良好になり、子どもをよりよく指導することができるようになります。
質問力のようなスキルは一度身につけると、減るものではないので、それ以降の教員人生にかなりプラスになります。
質問の種類
質問は、大きく2種類に分けられます。
それは、
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の2種類です。
聞いたことがある人も多いと思います。
クローズド・クエスチョンとは、YesかNoで答えられるような質問です。
例えば、「勉強は好き?」「ゲームは楽しい?」といった質問ですね。
こうした質問には、「うん」「いいや」「べつに」「まあ」のように短い返事で終わります。
子どもも高学年になるにつれてこうした回答が多くなっていきますね。
クローズド・クエスチョンは相手の意思をはっきりさせるためには有効ですが、コミュニケーションとなると一問一答になるので、すぐに終わってしまいます。
YesかNoなので考える力はほとんど必要ありません。
子どもの思考力を高めるためには、オープン・クエスチョンを上手に会話に取り入れていく必要があります。
オープン・クエスチョンとは、答えがひとつに決まらない質問です。
例えば、
「今日は学校でどんなことがあった?」「好きなスポーツはなに?」「もし、100万円あったら何を買う?」といった質問です。
これらの質問には、YesかNoでは答えられませんよね。
1人1人答えが違ってくるはずです。
逆に言うと、このオープン・クエスチョンを会話の中に取り入れることで、子どもたちは自然と頭を使って答えなければならなくなります。
子どもに何か質問されたとき、「もし〜だったら?」「なんでだと思う?」といったオープン・クエスチョンで問い返すことで、子どもはさらに自分の頭で考えようとします。
この繰り返しが子どもの思考力を高めていきます。
また、オープン・クエスチョンで問い返すことで、会話の中で子どもが話す時間が長くなります。
人間は、自分の話を聞いてくれた人に好意をもつ生き物です。
子どもの話を上手に引き出し、肯定しながら聞くことで、子どもとの関係も良好になっていきます。
先生が文句を言われるのは子どもの保護者が多いですが、子どもとの関係が良好なら(ほとんどの)保護者からは文句は言われなくなります。
子どもの思考力も高め、子どもとの関係も良好になる。
オープン・クエスチョンを会話に取り入れない理由が見つかりませんね。
では、このオープン・クエスチョンをどのように活用していくかをみていきましょう。
オープン・クエスチョンの具体例
オープン・クスチョンの作り方とオープン・クエスチョンの学校での生かし方をみていきます。
オープン・クエスチョンの作り方
まずは、基本的な質問の作り方ですが、作り方は非常に簡単です。
5W1Hを知っていますか?
疑問文で使われる5つのWと1つのHの英単語から作られた言葉で、質問の種類を表しています。
- What(なにが)
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(だれと)
- Which(どちら)
- How(どのように)
これらの質問を使うと簡単にオープン・クエスチョンになります。
例えば、
スポーツは好きですか? → 何のスポーツが好きですか?
日曜日は買い物をした? → 日曜日はどこに買い物に行きましたか?
のような感じです。簡単ですよね。
では、これらをもっと先生っぽく使っていきましょう。
学校でどう生かすか
学校ではオープン・クエスチョンを雑談するときから指導するときまで幅広く活用できます。
それぞれ見ていきます。
子どもと雑談するとき
雑談で使うときには、子どもに質問する際、クローズド・クエスチョンにならないように気をつければ大丈夫でしょう。
オープン・クエスチョンを意識して、「何が好きなの?」「どこでしたの?」「誰と行ったの?」「どうやってやったの?」など作り方は無限大です。
僕が普段からやっている雑談のコツは、子どもが先生に質問してきたことを質問し返すことです。
子どもは素直です。
しかし、高学年になると少し恥じらいも覚えてきます。
だから自分が話したい話題があるとき、それを質問の形で先生にぶつけてきます。
例えば、その子が週末に家族でお出かけをする予定があるときは、
というふうに聞いてきます。
そこで、
のように聞かれたまま答えるだけで終わってしまうと、その子がお出かけをすることを話せません。
ですから、
というように同じ話題で聞き返します。
すると、子どもは待っていましたと言わんばかりに自分の予定のことを話し始めます。その話を肯定しながら聞いてあげれば子どもはとても満足します。
ぜひお試しください。
また、実はこのテクニック?は子ども相手じゃなくても全然有効です。
むしろ、大人の方が、先に質問してくる傾向が高いので、聞き返してあげると子ども以上に話してきます。
でも、これがいいんです。
最初にも言いましたが、人間は、自分の話を聞いてくれた人に好意を持ちますから、話を聞くことでどんどん自分の人間関係も良好になっていきます。ぜひやってみてください。
指導に役立てる方法
次に指導に役立てる方法です。
子どもに指導するのが苦手な方はいませんか?
ぼくもいつになっても慣れませんでした。
しかし、このオープン・クエスチョンを意識して使うようにすると指導しているのにプラスの声かけができるようになりました。
具体的には次の通りです。
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ではそれぞれみていきましょう。
「〇〇しなさい!」→「なぜ〇〇しなきゃいけないんだと思う?」
「〇〇しなさい!」という指導をするときに、なぜ(Why)を使って質問するようにします。
焦っているときや時間がない時には、つい「〇〇しなさい!」と言ってしまいがちです。
しかし、その場しのぎであることは、先生方ならお分かりだと思います。
そこで、「なぜ〜と思う?」と疑問の形にすることで、子どもは受身の姿勢から自分で理由を考えるようになります。
「勉強しなさい!」
と言うより、
「なぜ勉強しないといけないんだと思う?」
と聞くことで、子ども自身が勉強する理由を見つけます。
自分で理由を見つけたのなら、勉強に対する取り組みも(少しは)改善されるでしょう。
なぜ(Why)を使う時には、1つ注意点があります。
それは否定文と一緒に使わないようにすることです。
「どうしてできないの?」「なぜ言われた通りにできないの?」というように、
『なぜ』と『否定(〜できない)』をセットにすると、子どもは解決策を考えるより言い訳を考えるようになり逆効果となります。
慣れていないうちは、プラスの質問になっているかどうかを確認してから子どもに質問するようにしましょう。
「どうしてこんなこともわからないの(できないの)!」→「どうすればわかるようになるだろう(できるようになるだろう)」
「どうしてわからないの(できないの)!」というときに、どうすれば(How)を使うようにします。
このときにも、「どうすればわかんだよっ!」否定的な表現にならないように「どうしたらわかるようになるんだろうね」とやさしく寄り添う姿勢が大切です。
WhyとHowの使い分けが難しいと思う人もいるかもしれません。
簡単にまとめると、
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どちらが良い悪いという話ではありません。使い分けることが大切です。
Why(なぜ)で原因を突き止め、How(どうすれば)で対策を考えていくイメージです。
「なんでできないの!」→「もし〇〇だったら、××できるかな?」
「なんでできないの!」というときに、もし〜だったら(If)を使うようにします。
「なんでできないの!」と言われると子どもは自信を無くしてしまいます。もしかしたら、できないのはやり方がわからなのかもしれないし、やり方をそもそも知らなかったからかもしれません。
そこで、「ちゃんとやれ!」と突き放すのではなく、「もし〜だったら」と子どもに例を示すことで、子どもが受け入れやすくなったり、新しい考えを思い付いたりします。
「もし〜だったら」というのは特に、特別な支援が必要な子どもに有効です。
ロッカーの片付けが上手くできない子も、ロッカーの片付いた写真を見ながらなら片付けられるかもしれません。
漢字が全然できない子も、漢字をなぞって書くのはできるかもしれません。
子どもができなくても一緒に考えてスモールステップで対応していきましょう。
まとめ
以上、今日はオープン・クエスチョンについて紹介しました。
オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョンは言葉自体は知っている方も多かったと思います。
しかし、教員生活に取り入れることで子どもの考える力を高めることができるようになります。
また、オープン・クエスチョンは大人相手にも使えますから、ぜひ使ってみてください!