教員として働いていると、引き継ぎのために子どもの性格や様子を話す機会が多くなります。
その中で特に多いのが、「自分の感情を表現するのが苦手」な子です。
自分のことを表現するのが苦手なので、友達があまりいないんですよ。
感情を言葉にできないから、暴れることがあります。
感情のコントロールはコミュニケーションに欠かせない超重要な土台です。
担任を持つ先生は、こうした感情を上手に表現できない子達に対する関わり方を頭に入れておく必要があります。
友達関係を壊しかねないこの特徴は、対処を間違えると、その子と保護者、そして周りの子も不幸にさせてしまう危険性があります。
1学期のうちに、二者面談を通してしっかりと対応しておくと、その子に関わる全員が安心して生活できるようになります。
そこで今日は、子どもが上手に感情表現できるようになる方法を5つ紹介します。
紹介する内容は、感情表現が原因で問題行動が表立っている子以外にも使えますので、子どもと関わっている人全てにメリットがあると思います。
子どもが上手に感情表現できるようになる方法
今回の参考文献は、『子どもが聴いてくれる話し方と子どもが話してくれる聴き方 大全』です。
児童心理学者、ハイム・G・ギノット博士は「子どもたちは肯定的な気持ちになれば、肯定的に行動する。子どもが肯定的な気持ちをもてるように助ける方法は、子どもたちの気持ちを受け入れることだ。」と言っています。
そして、この本には子ども気持ちを尊重する方法が5つ紹介されています。
それが以下になります。
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では、それぞれ見ていきましょう。
注意を傾けて聞く
誰かに話を聞いてほしい、共感してほしいと思うのは、自分以外の人にその気持ちを知ってもらいたいからです。
いわゆる「承認欲求」ですね。
SNSが大流行しているのは、この承認欲求が満たされるためです。人はいつだって誰かに話を聞いてもらいたい生き物なんですね。
「人に話を聞いてもらう」というのは、誰かにお金を払ってでもしてもらいたいと思う欲求です。
そんなことないでしょ〜。
と思うかもしれませんが、その最たる例が「占い師」です。占いは、お金を払って自分の悩みを相談したい人たちが利用していますから、納得していただけるでしょう。
大人でも話を聞いてもらいたいのですから、子どもなんて尚更です。
そして、子どもは大人より語彙が少ないですから、自分の言いたいことが表現できないことが多いです。特に、否定的な感情の場合はその傾向が顕著になります。
ですから、子どもが否定的な感情を話してきた場合は、特に気をつけて話を聞く必要があります。
当たり前ですが、そこでその気持ちをただ否定したり、道徳的なだけのことを言うと、子どもの気持ちは離れていきます。
言葉がまとまらず、拙い表現であっても、まずは手を止め、子どもに集中して聞いてあげることです。
子どもが求めているのは、こちらに共感して、ただ黙って聞いてくれることです。
たとえその問題が解決しなくても「ちゃんと話を聞いてくれる人がいる」というメッセージは伝わります。
「相づち」で気持ちを認める
話を聞くときには、「ちゃんと話を聞いているよ」と伝えるためには、相づちが効果的です。
「まあ」「なるほど」「ふうん」「うんうん」「そうなんだね」「ほんと」「あーね」といった相づちを口にしながら話を聞いてあげると、子どもは自分の考えや気持ちを見つめなおし、自分で解決方法を見つけようとします。
そこで問いただされたり、責められたり、あるいはアドバイスされたりすると、子どもはかえって自分の気持ちや問題の本質がわからなくなり、建設的に考えられなくなるそうです。
確かに、「なんでそんなことをしたんだっ!」「それはやってはいけないことだね!」「そういうときには〇〇するべきだよ!」と求められてもないのに言ってしまうのは問題です。
あくまで、子どもが自分で自分を振り返ることができるように「相づち」を打つようにしましょう。
また、相づちに関してのテクニックは、『相づちを打つタイミング』と『ミミッキング』の2つあります。
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感情に「ラベル」をつける
子どもの話には、たとえどんな話であっても、楽しい、悲しい、嬉しい、憎らしいなどの感情が込められています。
論理的な説明をしているわけではないので、感情が込められていることは悪いことではありません。
ただ、その感情をなだめるなどして、子どもの気持ちを無理にどこかへ追いやろうとすると、子どもは余計に混乱してしまいます。
先生が子どもの気持ちに対して「イライラするね」「悲しいね」といった言葉で感情の種類を表現する、すなわちラベルをつけてあげると、子どもは自分の内面が見えるようになり、落ち着くことができます。
「悲しい」一つをとっても程度があり、それがどう悲しいのかは子どもの匙加減です。
そのため、ラベリング(ラベルをつけること)するときには、子どもが使った言葉をそのまま使うのがおすすめです。
例文で確認してみましょう。
例文
子「〜こういうことがあって、すごくイライラしたんだよ」 ❌先生「なるほどね、それはムカついちゃうよね」 ⭕️先生「なるほどね、それはイライラしちゃうよね」 |
上でも述べたようにミミッキングの手法を取り入れます。
こうすることで、ラベリングもできつつ、話を聞いているというメッセージを送ることができます。
子どもの話の中に感情を表現する言葉が出てこなかったときには、先生の方から表現してあげましょう。
僕は、
そのときにどんな気持ちになったの?
と聞くこともあります。
「最悪」「最高」でもいいから、今の語彙の中から、拙いながらも気持ちを出してあげることが大事だと考えているからです。
※ 感情の語彙を増やしたいなら、感情類語辞典がおすすめです。
一緒に空想する
子どもがないものねだりをするとき、大人は無理な理由を理論的に説明しがちです。
しかし、説明しても意味がないことは容易に想像できると思います。
子どもは多くの場合、『何をどれだけほしいか』をわかってもらいたいだけなのです。
ですから、「〇〇を出す魔法があったらなぁ」「ここがもし××だったら〜」といった空想の世界を語ってあげると、子どもは気持ちをコントロールしやすくなります。
感情の強さを「客観視」する
発達心理学者の渡辺弥生教授は、自分の感情を数値化する【感情の温度計】を使い、感情の強さを『見える化』して認識させることも、感情のコントロールに役立つと言っています。
例えば、怒りやイライラを感じる際、「大声で怒鳴りたくなる」「モノを壊したくなる」といった感情を10とすると、今の気持ちはどの程度かを確認させると、子どもは自分の感情を客観視できるようになります。
これは『メタ認知』と呼ばれています。
難しい言葉と思うかもしれませんが、メタ認知というのは自分を自分で視ることです。
FPSのゲームなんかは、自分のキャラクターが画面上にいて、それを自分が見て操作していますよね。それを現実の世界で置き換えるイメージです。
メタ認知が上手にできる人は、自分をコントロールする力が高く、後先考えないような行動を抑えることができます。さらに、感情と思考を切り離して考えることができるので冷静な判断ができ、感情に振り回されない人生を歩むことができます。人生のできるだけ早い段階で身につけておくと人生がイージーモードになります。
いきなりそこまでのレベルになるのは難しいですが、もしマイナスな感情が湧いてきたらどうするかを決めておくことも有効です。
「場所を変える」「深呼吸をする」「水を飲む」といった自分なりの対処の仕方を決めておくと、感情のコントロールがしやすくなります。
まとめ
今日は、感情表現ができるようになる5つの方法を紹介しました。
もう一度見てみると次の5つです。
- 注意を傾けて聞く
- 「相づち」で気持ちを認める
- 感情に「ラベル」をつける
- 一緒に空想する
- 感情の強さを「客観視」する
子どもの感情表現は、人との関わりの中でしか身につきません。
むかしは、幼い頃から友達や兄弟と遊んだり、地域の中で交流したりとたくさんの人と関わる機会があり、その中で身に付けてきました。
しかし、いまは、少子化や核家族化に加え、新型コロナウイルスで地域の交流がなくなり、人との関わりが極端に減りました。
そういった子達が学校にくると、本人もその周りも困ってしまいます。
今日の5つの内容が何かしら参考になれば嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。